「水抜き」は、減量の最終手段であり最大のリスク
水抜きは、格闘技における最後の調整手段として多くの選手が取り入れています。
しかし、それは命を落とすリスクを伴う行為でもあります。
私が現役時代に実際に経験した中でも、
ドクターストップ、体重超過、失神、そして命を落とした選手もいました。
水抜きを“なんとかなるだろう”という気持ちでやることは、極めて危険です。
帳尻合わせの水抜きは失敗する
減量がうまくいかず、計量直前になって水抜きで帳尻を合わせようとする。
これは最悪の判断です。
すでに体が枯れた状態で水まで抜こうとすれば、
身体機能はまともに働かず、倒れるリスクが一気に高まります。
そもそも汗をかくにも体力が必要です。
体が空っぽの状態では、思ったように汗も出ません。
減量と水抜きのバランス
私の場合、通常体重は77kg前後。
たとえば66.7kg契約の試合であれば、
- 減量で計量前日までに70kg前半まで落とす
- 残りの約3〜3.5kgを水抜きで仕上げる
これが基本の考え方です。
水抜きは最後の微調整であり、主役ではない。
それが前提にあるべきです。
水抜きは1ヶ月前から準備が始まっている
本番で安全かつ確実に水抜きを成功させるには、
1ヶ月前からの身体づくりが必要です。
半身浴による発汗習慣
- 減量中は毎日15分×2セットの半身浴(時間があれば3セット)
- 温度は42〜43℃程度
- 目的は体重を落とすことではなく、発汗しやすい身体・熱耐性を作ること
これを継続することで、
汗が出やすく、反応しやすい身体に仕上がっていきます。
段階的な“試し抜き”で限界ラインを知る
水抜きは、どれだけ落とせるか、何時間かかるかに個人差があります。
だからこそ本番の前に、段階的に試すことが重要です。
私の場合は、
- 最初に1kgだけ水抜きをして反応を確認
- 数日後に2kgまで試す
- 身体の反応、疲労感、時間あたりの落ち幅を把握する
この繰り返しで、**自分の「安全な限界ライン」**を知ることができます。
水抜きは後半ほど落ちにくくなる
水抜きには「前半は落ちるが後半は落ちにくい」という特性があります。
- 最初の1時間で1.5kg落ちても
- その後の2時間で500gしか落ちない
- 最後の1kgは3時間以上かかることもある
この落ち方の傾向を知らないと、時間配分や体調管理を見誤って失敗します。
実例:5kg以上の水抜きに10時間かかった試合
私は過去に、65kg契約の試合で、前日までに70.5kgまでしか落とせなかったことがあります。
このときは、5kg以上の水抜きを本番で実施。所要時間は約10時間。
精神的にも肉体的にも限界でした。
事前に汗を出す準備ができていたからこそ乗り越えられましたが、
もし何の準備もせずに同じことをしていたら、倒れていたと思います。
水と塩の管理も不可欠
水分摂取の習慣化
- 減量中は日常的に水やお茶をこまめに飲む
- 体に「出すサイクル」を覚えさせる
塩抜きは本番2日前から
- 食事から塩分を抜くことで、体内の水分保持力を下げる
- 私は練習と発汗量が多いため、2日で十分と判断しています
過剰な塩抜きはパフォーマンスを下げるだけなので、必要以上にやらないことが大切です。
本番の水抜き
- 半身浴を15分1セットずつ繰り返し、体重を都度確認
- 合計4時間〜10時間かけることもある
- 500mlのハイポトニック飲料を用意し、ちびちび飲みながら水抜き
「一切飲まない方がいい」と言う人もいますが、
私の体感では、少量の水分を取りながらの方が、汗が出やすかった。
この感覚も人によって異なるので、準備段階で自分に合ったやり方を見つけておくべきです。
まとめ|水抜きは知識と準備がすべて
- 水抜きは命に関わる危険な行為
- 減量と水抜きはセット。水抜きは帳尻合わせの手段ではない
- 発汗体質の準備は1ヶ月前からスタート
- 段階的に試して「落ち方」「限界」「反応」を把握する
- 後半は落ちづらくなる。時間と体力を読み違えない
- 汗を出すにはエネルギーが必要。体が空っぽでは抜けない
- 本番は冷静に、準備した通りに実行する
次回は減量、水抜き後のリカバリーについてかきたいと思います。
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